第45回 作文コンクール入賞作品
第45回 作文コンクール入賞作品

入選

《島根県》安来市立伯太中学校3年 宮本 真妃
『からっぽっぽな言葉』

 私の両親はとても厳しい人で、特に、礼儀に対しては人一倍厳しい人だと思います。「おはようございます」「こんにちは」「こんばんは」「よろしくお願いします」「ありがとうございます」「どういたしまして」この6つは、必ず言えと教えられてきたため、幼い頃から私には、それらが当たり前になっていました。
 小学生になり、私は少しずつあいさつや礼儀に対する考え方が変わってきてしまいました。集団登校の集合場所で、一人の女性が通りかかったとき、「おはようございます」と言ったのが私だけでした。その女性は笑顔で、「君、元気だね。いいね」と言ってくれたことがあります。
 また、別のときには、学校で先生に、皆の前であいさつをほめられたり、当時習っていたバレーボールクラブでもほめられたりしました。それらがとてもとてもうれしくて、今までは気持ちを込めて言っていたあいさつが、ただ大きい声で言うだけになってしまいました。
 小学5年生になり、老人ホームに体験をしに行くことになり、一人のアルツハイマーのおばあちゃんに出会いました。そこで、私の自慢のあいさつをふりまいていると、
 「だめだねぇ。あんたのあいさつには、気持ちが込められていないねぇ。からっぽっぽっ。」
と言われました。それに対して、私はムカッとしてしまい、態度をきつくしてしまいました。それなのに、最後におばあちゃんは、にかっと笑って、
 「今日は来てくれてありがとうね。」
と言ってくれて、私は自然と、
 「どういたしまして。また来ますね。」
と言っていました。おばあちゃんの「ありがとう」一つで、優しくポカポカとした気持ちになりました。
 小学6年生のとき、また同じ老人ホームに体験しに行くことになりました。誰と話すかはもう決まっていて、あのおばあちゃんのところに行き、一年前のことを思い出し、あのときのようなあいさつをしました。すると、  「あら、あんたいいあいさつするねぇ。あたしの寿命、延びたわあ。ありがとねぇ。」  と言って、にかっと笑ってくれました。私のことは覚えていなかったけれど、たくさん話をしました。最後に、今度は私から、  「今日はたくさんお話しさせていただき、ありがとうございました。」と言いました。まだまだ、おばあちゃんのようにはいかなかったけれど、ちゃんと言えたようで良かったです。
 「どういたしまして。」
 そうおばあちゃんが言うと、私は、本当に人を気持ちよくさせられるあいさつができ、礼儀がある、このおばあちゃんみたいになりたいと、心から思いました。

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