第45回 作文コンクール入賞作品
第45回 作文コンクール入賞作品

入選

《鳥取県》鳥取市立南中学校1年 小谷 裕綺音
『勇気を出して』

 「大丈夫ですか?」
と、倒れているおじいさんに駆け寄りながら、母が声をかけた。これは、私が小学6年生の夏のできごと。母と兄と私の三人で、買い物に出かけたお店の駐車場近くの歩道に、そのおじいさんは倒れていた。
 その日も暑くて、何もしなくても汗が出る真夏日。木の陰で仰向けになっていた。母が声をかけると、おじいさんは力なく返事をした。母は熱中症を疑い、私と兄に飲み物と氷、塩タブレットを買ってくるように頼んだ。私たちが買ってくると、すぐに氷を脇の下や首、足の付け根にはさんだ。そして、おじいさんに飲み物を手渡し、飲ませてあげた。あっという間に、1リットルあった3分の1を飲み干した。一息ついてから、おじいさんにもう一度、
 「大丈夫ですか。ここがどこか分かりますか?」
と声をかけた。するとおじいさんは、
 「分かる。買い物の帰りで……。」
と言った。近くには自転車が置いてあり、かごには買い物した荷物が入っていた。「いつからここにいるのか」という母の問いに、「昼前から動けなくてここにいる」と答えた。時間を見ると、2時間半はそこにいたことになる。母が救急車を呼ぶというと、「大丈夫」と答えるばかりだった。おじいさんを置いていくことができず、私たち困った。
 そこに、通りすがりのお兄さんが、「大丈夫ですか?」と声をかけてくれた。
母が事情を話すと、「救急車を呼んだ方が良い」と言って、すぐに電話をしてくれた。救急車を待つ間も水分を飲ませてあげたり氷で冷やしたり看病したりしていた。その後、救急車が来てからは、救急隊の方と母とお兄さんが今までのことを話し、おじいさんは運ばれていった。
 兄と私は、母に頼まれた物を買いに行っただけで何もできなかった。倒れていたおじいさんに、何のためらいもなく声をかけた母、救急車を呼ぶか迷っていたときに声をかけてくれたお兄さん、この二人の勇気でおじいさんは病院に行くことができた。
 もし、私一人の時に同じような状況で困っている人がいたとして、その人のために動くことができるのかを考えたら、私には声をかける勇気も、手を差し伸べる勇気もないと思う。母になぜ声をかけることができるのか、聞いてみた。すると母は、「自分のいないところで祖父や祖母、そして私や兄が困ってしまい、人の助けが必要になったとき、親切な人に助けてもらえたらいいな」という気持ちがあるからだ教えてくれた。母の場合、家族を思う気持ちが人を助ける勇気につながっている。そんな母をかっこいいと思う。
 私もそんな母のようにためらうことなく、誰にでも声をかけられる人になりたい。
 「大丈夫ですか?」
 勇気を持ってこのひとことが言える人になりたい。

このページのトップへ