第45回 作文コンクール入賞作品
第45回 作文コンクール入賞作品

入選

《鳥取県》大山町立大山中学校3年 小原 乙華
『他を思いやる心』

 「情けは人のためならず」という言葉を私が知ったのは、小学生の頃に、ことわざの絵本を読んだときだった。人に良いことをすると、いつか巡り巡って自分に良いことが返ってくる、というこの言葉が幼かった私には、どうもふに落ちなかった。近所に回覧板を持っていくと、
 「いつもありがとうね。」
といってサブレをくれるおばさんはいたけれど、普段良いことをして返ってくることなど、あまりないのではないかと思っていた。しかし、中学生になった私には、少しだけこの言葉の意味が理解できるようになった気がしている。
 家族とショッピングモールへ行ったときのことだ。2階へ行くため、扉の開いたエレベーターに急いで乗り込もうとした私と妹を、父と母が引き戻した。そして、
 「降りる人が優先だよ。」
と言った。確かに、エレベーターから何人かの人が降りてくるところだった。
 私たちが降りる人を待って乗り込んだとき、もとから中にいた人が、扉を押さえてくれていた。そんなさりげない親切な行動で、私の心はとても温かくなった。さらに、エレベーターが2階へ着いたときには、私たちが降りるのを待って乗り込んでくれる人がほとんどだった。普段は気にも留めていなかったけれど、私の身の回りには思いやりがあちこちに隠れていて、そのおかげで居心地の良い空間があることを再認識した。
 人に何か良いことをしたとき、返ってくるのは形あるものばかりではない。他のためを思って行動すると、自分にとっても快適で気持ちの良い場になる。「情けは人のためならず」という言葉は、そういう意味も含まれるのではないか、と思う。
 また、友達と松江駅行の電車に乗っていたときの体験である。途中の駅で、アジア系の外国の人たちが乗ってきた。そしてすでに乗車している私たちに、何やら尋ねている。知らない国の言葉にたまに日本語が交じっていて、話の内容が上手く聞き取れない。困って周りを見ると、顔を伏せて眠っているような人や、イヤホンを耳につけてスマホに熱中している人が多い。再度、外国の人たちの話を注意して聞くと、「ヤスギ」という言葉が聞き取れた。友達も聞き取れたようで、
 「この電車が安来(やすぎ)で停まるかを聞いているよね。」
と確認し合い、いっしょに手で丸と作りながら、「はい」とうなずいた。伝わるかなと心配したが、グループの代表らしき男性に、満面の笑みで「アリガトウゴザイマス」と言われた。
役に立てたことが何よりも嬉しく、言葉は伝わらなくても、力になりたいという気持ちで助けになれることを知ることができたのだ。
 この日本が、誰もが笑顔でいられるすてきな国に近づけるよう、私は人を大切にする思いやりある行動を積み重ねていたい。

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