第42回 作文コンクール入賞作品
第42回 作文コンクール入賞作品

入選

《鳥取県》米子市立加茂中学校3年 戸田 竣也
『親切、観点を変えると』

入選 その日のスーパーマーケットは、お盆に使うお供えや食料などを買い物する大勢のお客さんでレジには列ができていて、僕はそこに並んでいた。
「どうぞ、お先に。」と、僕の前に並ばれていた白髪で少し腰の曲がったおじいさんが声をかけられてきた。僕は突然の事に緊張してしまい、目を丸く見開いてしまった。そして、ふと前を見るとカゴいっぱいに買い物をされていたおじいさんが、品物を一つだけを持って並んでいた僕に気付き、自分より先にしてくれようと思いつかれたようだった。僕は迷わず、「では、お先に。」と、軽く頭を下げ順番を代ってもらった。
 ところが、店を出てから僕はなぜだか後をひく思いがし、足が止まった。今日自分は祖母に頼まれた果物を一品買いに来たのだが、別に急いでいたわけでもない、レジに並んだ順番通り待つ余裕もあった、それなのに、「どうぞ、お先に。」と、いう言葉に、「優先してもらえる。」という思いがよぎり、自分の遠慮なさとずるさを感じたからだ。
 お先にと親切に気使いしていただいても、逆に、「ありがとうございます。でも、並んで待つのは大変なことですからどうぞこのままお先に。」と、相手を気使い親切にするべきではなかったのだろうか。自分が優先されるということは、相手を後回しにしてしまったということにも気づき、後をひく思いを反省した。
 そして、帰ろうとした時、店内からショッピングカートを押しおじいさんが出て来られた。そのまま自家用車まで行き、荷物を積み込まれカートを戻しに行こうとされていた。とっさに僕は、「今だ」と思い夢我夢中で駆け寄り言った、「このカート戻しておきます。」と言ったのだ。
おじいさんからは突然の出来事に驚かれたような様子がうかがわれたがそのまま会釈してカートを押し歩き始めた。
「すまんなあ、親切にありがとう。」と、後から聞こえた。その言葉に「えっ・・・、」胸がグッとなり涙があふれた。「どういたしまして。」の一言を返すことができない、振り向くことができない。「ありがとう。」また聞こえた、大粒の涙が地面に落ちた。振り向けない自分は、ただ右手を振り挙げて後向きに合図することで精一杯の心情だった。そして、足早にカートを戻しその場をあとにしたのだった。
 親切にしてもらい、「あっ、どうも。」それでよければそれで終わってしまう。だが、観点を変えれば、親切のお返しもできることを体験し、心が熱くなるほどの感動も得た。この体験が生活の習慣にできるよう、小さな親切それだけでなく、観点、見方を変えてこんな親切もあるんだ、と思えるような親切をみつけていきたい。

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