第42回 作文コンクール入賞作品
第42回 作文コンクール入賞作品

入選

《鳥取県》鳥取市立福部未来学園中学校2年 平田 璃乃
『がんばってたから』

入選 わたし達の地域にはお年寄りや子どもが使えるようにと、地域内を走るバスがあります。わたしは小学生の時からそのバスを利用しています。五、六人おられる運転手さんとは、毎日あいさつをしたり、お話しをしたりしてきました。
 春休みのことでした。その日は部活が長引いたため、いつもより一便遅いバスで帰ろうと思っていました。
 バス停で待っているとわたしの前をバスが通り過ぎました。運転手さんはわたしに気づいてくれたはずなのに・・・。驚いたわたしはあわててバスを追いかけました。バスは少し先で止まってくれました。
 ドアが開いて、運転手さんに「すみません。乗ります。」と言ったところ、運転手さんは驚いた様子で、「このバスは市役所に帰る便だよ。」と、時刻表を見せてくださいました。確かに市役所に戻って午前の便は終了と書いてあります。次の午後からの便は三時間後でした。
 わたしはあきらめて歩いて帰ろうと思い、運転手さんにお礼を言って歩き始めました。
 まだまだある道にため息をつきながら歩いていると、お店の前で地域のおばあさんに呼び止められました。「どうしてこんな所を歩いているの。」わたしが事情を話すとおばあさんは、買ったばかりの缶ジュースを取り出し、渡してくださいました。「いただけません。」あわててわたしが言うとおばあさんは、「がんばってるから、持って行きんさい。」と微笑みながらわたしに言ってくださいました。
 地域の方の優しさに心が温かくなったわたしは、おばあさんにお礼を言って、少し元気の出た足取りで歩き始めました。
後ろから何台か車が来たので、通過するのを待っていると、クラクションの音がします。顔を上げてその車を見ると、先ほどの運転手さんがわたしに手招きをしています。どうしたのかと思って、運転手さんを見つめていると、「部活をがんばった後なのに、歩かせるのはかわいそうだけ、ちょうどわしも仕事が終わったし、乗したげる。乗りんさい。」と言って、助手席のドアを開けてくださいました。わたしがお礼を言って乗ると、「お疲れさん。また困った時は乗したげるな。」と言ってくださいました。
 家の前まで送ってくださった運転手さんにお礼を言い、手を振って見送りました。
 あの時のおばあさんと運転手さんの優しさが今でも忘れられません。当たり前のように接してくださった二人の思いが胸に染みました。そして、人と人とのつながりが深く、町全体が優しさに包まれているこの町がもっともっと好きになりました。

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